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百町森について記事
1999年6月20日(日) 朝日新聞 朝刊

きほんのきスペシャル 「積木で遊ぶ」

 子どもには積み木やブロックのような、創造性を養うおもちゃを与えたいと思う。しかし、我が家の子どもたちはキャラクター商品やテレビに心ひかれっぱなしだ。積み木やわらべうたで、子どもだけでなく大人の心もつかむ達人がいると聞き、ぜひ会いたい、と思った。

 「積み木があっても、子どもはなかなか遊んでくれない。」テレビや動力付きのおもちゃは極力避けたいという茨城県つくば市の主婦、安永知栄さん(三〇)は遊びのきっかけ作りに悩む。子どもの感心をぐっと引きこむのは、我が子といえども以外に難しい。あこがれのおもちゃデザイナー相沢康夫さんに、子どもを引きつけるおもちゃ遊びを伝授してもらおうと、静岡市にある絵本とおもちゃの専門店「百町森」を訪ねた。

 全国各地の保育園などで「積み木パフォーマンス」をして見せている達人は、赤や黄、青色の配色が美しいスイス製の積み木をパタパタと動かしながら、いたずらっぽく話してくれた。「積み木はね、親が積み上げたり壊したりするのを百回繰り返すと、百一回目になって子どもが自分で積むんですよ」

 子どもができない形でもいい。積み方を見せてやることだという。少し前まで、本読みをねだっていた安永さんの長男の昌太くん(三つ)が、じっと相沢さんの手元を見つめていた。
 しかし、大人も目を奪われたオブジェのような組み物を見て安永さんは、「でも、発想が貧困で、こんなすばらしい形はできなくて・・・・」。
 「ともかく大人が楽しむ姿をみせてやればいいんですよ」と相沢さん。「そうは言っても・・・・」と言いかけると、様々な組み上がりの写真が載っているパターン表を出してくれた。「まずはパターン通り作ってみればいいんです。全部作り終えたら、自分のパターンが作れるものですから」
 そうだ、堅苦しく考えることはない。

 しかし、子どもと過ごす休日を思い出すと、そんな甘いものではないような気がしてくる。大人が楽しみ、積んでみせるだけでいいのだろうか? 安永さんも
「我が家には、立方体や直方体だけのシンプルな積み木しかないんですが、それでも興味を持ってくれますか」と、まだ不安げだ。
 「ごっこ遊びにつながる会話がほしいですね。例えば、『おうちができたよ』だけでなく、『おうちができたら、ミーちゃんが遊びに来ました』というように」。相沢さんは小さな立方体の積み木に板状の積み木を渡し人さし指で押さえ、「『指を離したら落ちると思う?』でいいんですよ」。
 こどもは常にごっこ遊びをしているから、その「ごっこ」のもとになる心の中のイメージを膨らましてやることが、何より大事だという。絵本を読んだり、散歩に一緒に行って花や虫を見つけたり、そんなことの積み重ねがなければ、遊びも膨らまないそうだ。

 では、おもちゃに適齢期は?
 「一応目安として、うちの店でも表示していますが、『四歳以上』というのは、三歳の子が遊べないという意味ではありません。複雑な形は作ることができなくても、平面に並べることや、好きな色だけ集めることはできますから。要はその子を認めてあげること。ぼくなんか、うちの娘が何か作ると、『天才だ、すごい』って、すごくほめましたね」

 大人の価値観を押しつけず、子どもを尊重する。すべてはそこに通じるようだ。「素材」へのこだわりも、時には押しつけになるかもしれない。「白木の積み木と色のついた積み木があれば、おじいちゃんおばあちゃんは白木の方を手にとって、『あったかくていいね』と言う。でも、年齢が低ければ低いほど色つきを選びます。また、おもちゃは木であってほしいけれど、ブロックのように部品自体が複雑になれば、木では具合が悪いんです」

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