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日本経済新聞 1999年10月5日(火)夕刊 生活家庭欄

子供の”ごっこ遊び”復活を

疑似体験で学ぶ人づきあい <楽しみ創造、目輝かす>

隠れる泥棒役の子供を警察役の子供が探し、追いかける「どろけい」。ご飯を作ったり子育てをまねる、ままごと遊び。そんな「ごっこ遊び」を楽しむ子供の姿が減っている。自分や友達が違うものになりきって楽しむ「ごっこ遊び」は、創造力を膨らませ人間関係を学ぶシュミレーション。学級崩壊、キレる子供・・・・子供の問題行動のほとんどは、この遊びの復活で解決できると指摘する専門家もいる。
 「男の子ならヒーローもののゴーゴーファイブごっこ。女の子ならリカちゃん人形でお母さんごっこ。ごっこ遊びは、一部の幼児の遊びになってしまった」。子ども調査研究所(東京・渋谷)の高山英男所長は指摘する。身近な親をまねるままごと、鬼ごっこから、戦闘ごっこや疑似野球である三角ベースまで、ごっこ遊びは、集団の中で役割を果たす意味を子供たちに気付かせていくという。

★孤独に慣れる
 「ごっこ遊びは八〇年代半ばから追いやられ、今や小学生にとっては『幼稚な遊び』。運動神経のいい男の子は、本格的なサッカーや野球に向かい、大勢はテレビゲームへ。女の子は歌手のSPEEDや安室奈美恵、キャラクターグッズ、おしゃれアイテムに興味を移し、ハイティーン世代を先取りしたような遊び方が小学生の主流だ」と高山所長。
 東京成徳短期大学の深谷昌志教授(教育社会学)は「今の子供の遊びは、家でテレビかマンガ・雑誌を読む、友達としゃべる、あるいは一人で外をぶらぶらするというもの。一人・少人数で遊ぶことに慣れ切り、逆に孤独に寂しさを感じないでくつろぎを見いだしているようだ」と話す。
 塾、稽古(けいこ)事通いで過密なスケジュール。地域には原っぱもなければ遊びを一緒に楽しむ仲間もいない。少子化で貴重になった孫にねだられ、祖父母がテレビゲームを買い与える。ごっこ遊びの舞台装置は壊れて行く一方だ。
 深谷教授はこう続ける。「子供たち一人一人は知識もあって、いい子なのに、群れるととたんに危なくなる。協力したり意見をすり合わせることが苦手で、大学生を見ても群れ方が幼い。学級崩壊、すぐキレる、集団への不適応など、人との付き合い方を覚え、調整能力を磨くごっこ遊びを復活させることで、こうした問題の大部分を解決できるのでは」
 世界のおもちゃや絵本を紹介・販売する「百町森」(静岡市)の柿田友広さんは、ごっこ遊びを体験できる部屋「プーコーナー」を開いている。「多くの親は、身についたものの効果が早く見える稽古事、塾通いと知育に偏重しすぎ。ごっこ遊びは自分で遊びのテーマを決め、想像を膨らませ、自分なりのファンタジー世界に入っていく経験を積むこと。安定した人格を育てるのに大事だと思う」と話す。
 プーコーナーで塾の合間に寄った小学生が、目を輝かせてごっこ遊びをするのを見ると、大人から課題を与えて「遊ばせる」のでなく、自分で楽しみを見つける大切さを実感するという。「ごっこ遊びのファンタジーをいつまでも幼稚だと切り捨ててはだめ。その世界は自分を出し切る発散の場であり、喜びの感情を紡ぐ場。小学生になっても、思春期に至るまでは必要」と柿田さん。

★震災後のケア
 阪神淡路大震災で親をなくした子供のケアに取り組むため「あしなが育英会」が今年開設したレインボーハウス(神戸市東灘区)には、アート、音楽、おしゃべりの部屋とともに「ごっこ遊びの部屋」がある。砂場やミニチュアのビル、家、車、人形の模型、かつらや付けひげで変装できるグッズもある。よく行われるのは以外にも地震ごっこだ。
 町を揺らし、建物や人を倒し、子供たちは救急、消防、ブルドーザー役と分担し救助に走る。悲劇を追体験し、自分の感情を出し切ることで「僕のお父さんは、こんな風だった」と、殻にこもりがちだった子供が言葉を取り戻すきっかけになるという。
 地域が一体となって、子供の遊びを守る努力を続けている例もある。
 「おい、どろけいやろうぜ」「うん、やろう、やろう」。泥だらけになった子供の一人から声が上がると、とたんに小学生から中学生、高校生まで何人もの子供が集まってくる。東京都世田谷区にある羽根木プレーパークの夕方の定番の光景だ。この公園は「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに住民が主体となって運営している。
 子供たちがやりたい遊び、環境を作る手助けをする大人「プレーリーダー」が常駐し、時に起こるケガなどに対処する。木登り、べーごまなど思い思いに遊んでいる。ごっこ遊びも全盛だ。

★地域ぐるみで
 プレーリーダーの島村仁志さん(31)は「習い事の合間の限られた時間しかなくても、子供たちは、ここにくればだれかいる、面白いことができるとやってくる。けんかもある。でも友達と思い切り遊べる場所でなら自分を発見できる喜びがあるのでは」と話す。
 「施設がなくてもいい。地域の児童館や子供会、塾のオーナーなども巻き込んで、毎週、何曜日は地域遊びデーと決めるだけでも、ごっこ遊びを楽しむ子供たちの笑顔が、また見られるのではないか」。高山所長はそう提案している。

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