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夢遊便 Vol.9 1995年夏号(発行:静岡銀行業務企画部)

子どもたちに媚びたりしない ぼく自身が楽しんでる

文句なしに面白い!というのは、静岡市在住のおもちゃ作家・相沢康夫さんが綴った漫画集『好きッ! 絵本とおもちゃの日々』(エイデル研究所刊)のこと。作者自身「この本は一冊まるまるコマーシャル」と語っているように、この本では、相沢さんが子どもたちに与えた絵本やおもちゃの紹介が中心。でもその背景には、多様性と想像力に満ちた子どもたちの世界に魅きこまれていく父親の姿が真っすぐに描かれています。

本を拝見してると、お子さんたちとの時間をとても大切にしていらっしゃいますね。
うーン、どうかな。最近そう言われることが多くて嫁さんが怒ってるんですよ、お父さんのどこがって(笑)。特別なことをしてるわけじゃないんです。わが家でのぼくの役割は、主に子どもたちを風呂に入れることと本の読み聞かせ、それにおもちゃで一緒に遊ぶことぐらい。ほかのお父さんたちと同じで、ただ子どもたちと遊んでるのが好きなんです。子どもたちが新しいものを体験したり、発見したりしたときに見せる表情を追っていくのは実に楽しい。それ以上にぼく自身絵本やおもちゃが好きだから(笑)。

『好きッ!』に描かれているのは、五年にわたる作者と三人の子どもたちとのふれあいの記録。アニメの「スノーマン」を見て何十回目かに突然モ死“の意味を理解して泣いた長男の一郎くん。ホントは好きでたまらないのに妹をついいじめてしまう不器用な次男の英介くん。寝かしつけるのに骨の折れるおしゃべり好きな長女の友里ちゃん。三人三様の感受性で古今東西の絵本やおもちゃが料理されていきます。

相沢さんにとって良いおもちゃ、良い絵本というのは?
残念なことに、これまでの日本のおもちゃには、子どもに媚びたものが多いですね。子どもの考えそうな遊びはこんなものだろうと大人たちが考えた遊びを押しつけてしまっている。これは、子どもを馬鹿にしていることと同じなんですね。それから最近では親に媚びたものも多い。例えば、積木に文字を書いて、遊んでるうちに文字を覚えさせてしまおうなんてのは、遊びを誤解しています。積木を並べて自由な想像を膨らますことにこそ意味があるはずなのに。彼等の想像力の豊さに触れたら、決して馬鹿にできないし、媚びたりできないと思うんです。絵本でも、おもちゃでも、アニメでも本当にいいものというのは、作り手が《子ども向けだからこそ最高のものを》と考えて作られた作品。そういうものは、子どものものでも、結果として大人も楽しめたりするんです。

静岡市鷹匠にある絵本とおもちゃの店に勤める相沢さんは、十年前この店に来てからヨーロッパのおもちゃに興味を持ち、いつしか自らもおもちゃ作家に。現在では、アイソモとヴィボの二つの作品がスイスの世界的なおもちゃメーカー「ネフ社」に認められ、製品化されて世界中の子どもたちのもとへ。

相沢さんがおもちゃ作家になられたきっかけは?
デパートのおもちゃ売り場なんかに行くと子どもの興味を刺激するものがいっぱいあるけど、実際に買ってみるとすぐ飽きちゃったり、壊れちゃったり。そういうときにも、結局“おもちゃ”だからといって捨てられてしまう。日本では、それを繰り返してきた。それにぼくが気がついたのは、ヨーロッパのおもちゃに出合ったとき。つまり、この店で働くようになった十年前からなんです。ヨーロッパのおもちゃというのは実によく考えて作られていて、子どものものだからといって決して手を抜いていない。ぼくの大好きなクラーセンの作品なんかは一つの芸術品と言えます。それは、決して何か教えるためのものではないんです。指導者が《さあ、こういうものを作りましょう》というのは、もうすでに遊びでなくなってしまう。指導された遊びにも、それなりに達成の喜びみたいなものはあるけど、《よくできました。ハイ、次はこれを》と、次々に段階を踏ませていくというのはまずいと思います。何をして遊ぶかを自分で選びとることが大事なんです。与えられた段階を登っていくだけで大人になったら、ちょっと怖い感じがしますね。

相沢さんは本の中で「本もおもちゃも道具にすぎない」と語っています。そして「大事なのは道具そのものではなく、かかわりなのだ」とも。つまり、子どもたちが一人で遊び出すには時間が
必要で、それまでは親が読み聞かせ、一緒に遊ぶことが大切だと言います。相沢さんは、自分の読み聞かせを、三人の子どもたちが楽しみにしていてくれる間はずっと続けていきたいと考えています。

相沢さんのお作りになったおもちゃへの子どもたちの反応は?
おかげさまで、ぼくの作ったおもちゃを子どもたちに与えると、子どもたちは真剣になって遊んでくれます。全人格を注ぎ込んでやってるって感じですね。無限の組み合わせの中からどうやって並べようか、心の中が活発に活動しているのが分かるんです。自分から手にとって、自分の考えで置いてみる。そして、その造形を美しいと感じてくれたら最高ですね。そこには電動モーターの必要はないし、指導もいらない。子どもたちが作り上げた世界があるんです。これからも、そんなおもちゃを作っていきたい。そして、自分自身が楽しめるものをね。

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