宮崎駿氏が、かつて『ゲド戦記』のアニメ化の権利を得ようとし、断られた時、「正直ホッとした気持ちもあった」と、昔読んだ彼のエッセイにあった。
私には、この宮崎氏の気持ちが、手に取るようにわかる。思い入れの強さなのだ。
『指輪物語』も『ナルニア』も『モモ』も面白く読んだ。が、『ゲド』は別格なのだ。
読み手の精神世界にまで、グイグイと入ってくるのが、私にとっての(そして多分、宮崎氏にとっても)『ゲド』なのだ。
アニメという文学とは別のメディアに作り替えるクリエイターとして、挑戦したいけど、正しく作り替える事ができるのだろうか、という一抹の不安もあったのかもしれない。
思いが強ければ強いほど、大傑作になる可能性もあるが、下手をすれば大失敗に終わる可能性だってあるのだ。
私にとっては、世界観すら変えてしまった児童文学、それが『ゲド戦記』である。とにかく面白い!ぜひ、ハードカバーで揃えたい本だと思う。
そして、この夏、公開される宮崎氏の息子さんのアニメに、心底から期待するのである。
(2006年4月 相沢康夫)
1 影との戦い
少年ゲドは,自分に不思議な力がそなわっているのを知り,ローク学院で真の魔法を学ぶ.血気にはやる高慢なゲドは,修業中あやまって死の影を呼びだしてしまい,きびしい試練にのぞむ.
2 こわれた腕環
アースシー世界では,島々の間に争いが絶えない.力みなぎるゲドは,平和をもたらす不思議な腕環を求めて旅し,暗黒の地下で迷宮を守る巫女の少女と出会う.
3 さいはての島へ
アースシーを治める大賢人となったゲドは,災いの源を断つため,若い王子をともなって最果ての地におもむき,死力を尽くして戦う.
4 帰還 ゲド戦記 最後の書
平和と秩序を回復するため全力を出しきったゲドは,故郷の島に帰った.心身ともに衰えた初老のゲドに,思いがけない女性との再会が待っていた.
5 ドラゴンフライ
故郷の島で妻テナー,養女テハヌーと共に静かに余生を送るゲドも,70歳になった.ふたたび竜が暴れだし,緊張が高まるアースシー世界を救うのは誰か.
6 アースシーの風
5つの物語(「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」「トンボ」)と,作者による詳しい解説を収める〈外伝〉.作者の構想したアースシー世界の全貌が鮮やかに見えてくる,「ゲド戦記」ファン必見の一冊.
編成替えについて
現在のハードカバー版・少年文庫版では、従来のハードカバー版の、別巻『ゲド戦記外伝』を『ドラゴンフライ――アースシーの五つの物語』と改題し第5巻に、第5巻『アースシーの風』を第6巻としています。
(以上、出版社ホームページより)
作品について
ゲドとは何者か
「アースシー」の東北海域,多数の魔法使いを生んだ地として古来名高いゴント島のゴント山中腹,北谷の奥の十本ハンノキ村生まれ.幼名は母がつけてくれたダニー.1歳になる前に母と死別.鍛冶屋の父に育てられる.まじない師の伯母から簡単な呪文を教わり,ヤギや鳥たちを操るようになる.獰猛な鳥たちと一緒にいることから,ハイタカとあだ名される.13歳になるひと月前,魔法を使ってカルガド帝国の侵略軍を撃退したのち,ル・アルビの大魔法使い沈黙のオジオンに出会う.13歳の誕生日に,オジオンから自分の真(まこと)の名前を知らされる.その名が「ゲド」であった.
19か国で翻訳出版
米国,英国,日本,フランス,ドイツ,イタリア,オランダ,セルビア,ロシア,韓国,スウェーデン,チェコ,ブルガリア,ギリシア,中国,ポーランド,フィンランド,タイ,デンマーク
作者について
アーシュラ・K.ル=グウィン Ursula K.Le Guin(1929〜)
アメリカの作家.カリフォルニア州バークレー生まれ.マサチューセッツ州ケンブリッジのラドクリフ・カレッジ,コロンビア大学で学ぶ.のち,ジョージア州,アイダホ州の大学でフランス語を教える.現代に生きる10代の若者をあつかったリアリズム作品『どこでもない場所』や,両性具有者を主人公にした『闇の左手』をはじめとする大人向けSFを書いていたが,「ゲド戦記」シリーズでファン層を飛躍的に広げた.
『闇の左手』がヒューゴー賞,ネビュラ賞(どちらもアメリカの代表的なSF賞)を受賞したのをはじめ,数々の賞を受賞. 2001年に,Tales from Earthsea (『ゲド戦記外伝』,少年文庫版では『ドラゴンフライ――アースシーの5つの物語』)と The Other Wind(『アースシーの風』)を立て続けに刊行してファンを驚かせた.「人類学者A.L. クローバーを父に持ち,歴史学者チャールズ・ル=グウィンの妻であることが,自分の作品に大いに寄与している」と,自ら述べている.母は『イシ―北米最後の野生インディアン』(岩波書店刊)の著者シオドーラ・クローバー.