11 真学塾の頃

どうしたらお客さんを呼べるのか、小さなお店にとってこれは本当に大きな大きな課題です。一般書店では雑誌がお客さんを呼びます。最近はそれもコンビニに盗られて苦しんでいるようですが…。イベントをしてもかえって赤字になる話は前にしました。私が経営で苦闘している時、鴻池さんという偕成社の名物編集者が下村昇さんという小学校の先生(当時)を連れてやってきました。

下村先生は漢字の覚え方を独自に考え、系統立てていました。例えば、「豆」は「イチ クチ ソ イチ」と唱えるのです。「頭」は「イチ クチ ソ イチ 、イチ ノ メ ハ」となります。子供が慣れてくると「イチ クチ ソ イチ」は「豆ヘン」と理解します。こうすると覚えやすいし、ヘンとツクリをすぐに覚えます。これは、数学における水道方式のようなものではないでしょうか。私は学生の頃、バイトで進学塾の講師をしていたものですから、理解の遅い子に楽しく解らせる方法に敏感でした。それでついうっかり、この二人の前で「この方法で子供に字を教えたいなぁ。」と言ってしまったら、二人は「真学塾」という名前でやるのはどうかと言うので、その後二年ほど、百町森は「真学塾」という小学生を対象にした不思議な塾をやりました。

この頃、松本キミ子さんを呼んで、絵の苦手な子のために、輪郭を描かずに、三原色で絵を描くキミ子方式の教室を何度かしていました。

そこで、これも自前でやることにし、こちらは主に相沢が担当し、下村式で字を教える方は私が担当し、「真学塾」はスタートしました。『トラや帽子店』としてデビューする前の中川ひろたかさんや福尾野歩さんの歌なんか皆で唄ったり、もちろん本の読み聞かせや、絵本をテーマにいろんな遊びを考えて実践しました。

これも、店の集客力という点ではまだまだで、苦しい経営は依然続いていましたが、店に活気が出てきました。子供たちとも仲良くなり、親からも絶大な信頼をえて、なかなか充実した日々でありました。

(コプタ通信2005年03月号より)

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