「森の家具」のヒノキの山を訪ねて
静岡市で製作されている「森の家具」シリーズ。実は、静岡県産のヒノキを使っています。先日の工場見学に続いて、百町森のスタッフで静岡市内にあるヒノキの山に行ってきました。
お邪魔したのは、静岡市の安倍川沿いにある玉川(たまかわ)きこり社さん。
「森の家具」の材料となるヒノキの一部が、ここで育っています。
静岡市内から車で小1時間、安倍川沿いを上り、途中から支流の中河内川沿いに上っていくと、待ち合わせ場所に指定された「土場」があります。山で切った木を道路沿いに集めておく場所です。
最初は、土場でたき火を囲んで座って、お話を伺いました。
山主の萩原さんにヒノキの育て方のお話を伺いました。
苗木
苗木を植える際は、1ヘクタール*(ha)に3千本くらいの密度で、苗木の間隔は1.8mくらいに相当する。
*1haは、10,000平方m、つまり100m×100mの正方形。サッカーコート(100×70mくらい)の約1.5倍、400mトラックくらいの広さ。
それから10年〜15年おきに間引いていく(間伐)。昔は、「皆伐(かいばつ)」といって、一度にまとめて伐採していたが、今は間伐しながら60年〜90年くらい育てている。
野生動物との闘い
苗木で一番悩ましいのは、猿や猪、鹿といった野生動物たちで、2年生の45cmくらいの高さの苗木の一番上の柔らかい芽を食べてしまう。それを防ぐために、2mくらいの高さの網で囲ったり、猟友会にお願いしたりしているが、被害を防ぐことは難しい。この辺りでは15年くらい前まではいなかった。
苗木は1年に30cmくらい成長するので、1m(5年生)くらいの高さになれば一安心。子育てと同じで、学校へ行くまでが大変。
下刈り、つる切り
下刈りは、苗木が雑草に負けないために行います。夏前からの暑い中、炎天下で行う厳しい作業で、5年間ほど行う。つる切りはその後も続く。
枝打ち
無節材(節のない木材)を育てるために枝打ちをする。枝があると、その部分が節になる。枝打ちしておくと、節が隠れて見えなくなる。
玉川きこり社の繁田さん。
出発
現場へは、この「フォワーダ」に乗って移動します。切り出した材木を積んで山から下ろしてくる自走式の機械です。左右のゴム製のクローラ(いわゆるキャタピラ)で、急な坂やジグザグな道も登っていきます。
急でジグザグの作業道を登ったあとも、細い道を登っていきます。
ちょっと休憩。下に降りると、自力で登るのは大変です。
短い木が積まれています。ホダ木になるのかな。
後から追いかけてきた繁田さん。かなりの傾斜ということがわかります。
現場近く
ここからは歩きます。
これはスギの枝です。
60年生くらいの林だそうです。
伐倒時や玉切り、集材などに活躍する油圧ショベル。幅が2.3mくらいなので、道幅は3mちょっと必要だそうです。確かにギリギリですね^^
作業道上に伐採した木が寄せられています。枝払いもされています。このあとは、フォワーダに載せて土場まで運びます。
作業道の最先端まで来ました。かなり高い所まで来て、上の木の生えているあたりが尾根だそうです。
作業道作りの主役
間伐作業のためには、作業道が必要です。
それを切り開くのが、このミニ油圧ショベル。
コマツのミニ油圧ショベルPC78USの先端に取り付けたアタッチメント「ザウルスロボ」は、つかんだり、回転させることできるので、萩原さん曰く「かゆい所に手が届く」のだそうです。動画のように、バケットを90度回転させた状態で掘削できるので、狭いスペースでも道を付けるのが楽にできます。 もちろん、伐採した木をつかむこともできます。
この辺りの山の地図を見せていただきました。
山主の仕事
作業道を付けるのは、製材所、工務店、エンドユーザーに「欲しい」と言われた時に、切れるようにしておくためと萩原さんはおっしゃいます。また、人工林は責任を持って手入れしなければならないとも。放っておいても、小さい木が枯れてしまう「自然枯れ」が出るので、適度に切って間引くことで、下にも日光が入り、育つようになるそうです。
「3代続かないといい山にならない」という言葉があるそうです。1代30年と考えて90年です。萩原さんの山は10代300年。気の遠くなるようなスパンで、木と山を育てているのです。
「私が植えた木じゃない、お祖父さんが植えた木なんです。」
切った以上植えていかないと、次の代が困るし、山も良くならないが、苗木を植えると鹿がやってきて食べてしまう。15年ほど前にはなかった問題だが、今はそれが悩ましい、とおっしゃっていました。
選木
きこり社の繁田さんにお話を伺いました。 間伐において、どの木を間伐するかという「選木(せんぼく)」は、なかなか難しい作業です。
ここでは、伐採する木にチョークで印が付けてあります。選木の際に考慮していることは
- 作業道からあまり下の方にある木は引きあげるのが大変なので、切り捨てる。
- 曲がっているのも、針葉樹としては価値が低いので切る。
- このあたりは、密に生えているので、多めに切ってしまう。
- 残す木は、素性がいい、枝ぶりがいいこと(上から4割くらいまで枝があると成長がいい)。
- 枝打ちの跡が残っていると、材になった時に死節(しにぶし)が出るため、家具にする際に埋め木をする必要が出てくるので、間伐の対象。
- 残したい木でも、傷(伐倒の際に当たるとか、作業道を作る時にショベルが当たったり、転がり落ちた岩が当たったり)があると、シミになってしまうので、今のうちに切ってしまう。
伐倒作業〜造材(枝払い・玉切り)
作業道のすぐ下にあるヒノキの間伐作業を見学しました。
木を傷めないように山側に寝かせる(「倒す」のではなく)ので、ちょうど作業道に交差する感じになります。木が下に滑り落ちるのを防ぐために、ワイヤーで引っ張りながらチェーンソーで切っていきます。
最初に、倒れる側に「受け口」と呼ばれる三角形の切り込みを入れ、次に、反対側に「追い口」と呼ばれる切り込みを入れます。ここでは、「くさび」は入れずに、ワイヤーをウインチで引っ張って倒しました。
皮むき体験
この時期は木が水をよく吸うので、一番皮をむきやすいそうです。むくと濡れていて、この水分を舐めてみるとほんのり甘みを感じます。これ目当てに鹿が皮をむいてしまう被害が出ているそうです。
皮の中の木肌は白く柔らかいので、逆に弱く丸太柱には向かないそうです。冬の時期の硬い皮をむくと木肌が黒く、それを磨くとツヤが出るとのことです。
チェーンソー体験
いよいよ作業道のどん詰まりに向けて登っていきます。
そして、繁田さんにチェーンソーの使い方を教わって、小径木を切ってみました。作業時は、チェーンソー作業用の防護ズボンを履きます。万が一の時、内部に入っている繊維が絡まって、チェーンソーが瞬時に止まるとのこと。でも緊張します。
いよいよ伐倒体験
チェーンソーの使い方もわかったところで、ついに本日のクライマックス、間伐材の伐倒です。そして繁田さんはおもむろにめちゃくちゃ急な崖的なところを登り、「えぇ〜っ!?」というようなところにあるヒノキを指して、「これにしましょう」。
みんなで登りました。
切る前に斧を木に立てかけて、山の神様に感謝と切らせてくださいという許可と、安全を祈るそうです。斧の片側には3本の線と
もう一方には4本の線が彫ってあります。
この線は、山の神様への信仰の産物で、3本の線は「ミキ」で「神酒」(おみき)を表し、4本の線は「ヨキ」で「四気」つまり自然を表しているそうです。つまり、斧を木に立てかけるのは、お神酒がわりということなんですね。
先に繁田さんが、「受け口」を作って倒れる方向を決め、「追い口」もある程度作ってもらってから、私たちが続きをやりました。
交代で、チェーンソー作業用防護ズボンをはいて、チェーンソーを追い口に入れます。繁田さんが適宜くさびを入れつつ、指導してくれます。
もうあと少しというところで、チェーンソー作業を終え、あとはくさびを叩いて倒すだけ…となってからが、全然倒れず、悪戦苦闘してようやく倒れてくれました。
これが切り株です。大きい!
土場に戻ってたき火のそばでお弁当を食べました。
玉川きこり社さんのオリジナル商品も見せてもらいましたよ。
「きこりの仕事と道具」はその名の通り、きこりにまつわる仕事と道具をイラストと説明文で解説した本。今日出会った、フォワーダやチェーンソーなどが出てきて、身近に感じました。イラストもかわいい。
「きこりの絵合せ」は、「きこりの仕事と道具」のイラストを使ったメモリーゲーム。なんとヒノキに印刷されています。
とにかく、デザインが洗練されていておしゃれです。
見学&体験を終えて
埋め木バンザイ!
埋め木の工程では2人作業していましたが、こういったところに手間をかけることで、資源の有効利用と、お客様にも納得していただける品質を両立しているところが素晴らしいと思いました。
「節がなければいい」というスタンスでは、節のあるほとんどの材が無駄になってしまいます。かと言って、「節はあるものだから受け入れろ」では、見た目や実用上の問題(凸凹がある等)が生じます。
そこに、ヒノキの枝を使った埋め木をして、その上でパテ埋めすることで、見た目も美しく、表面もつるつるの板が生まれます。この板そのものに「ものを大切にする」「資源を大切にする」という姿勢が体現されているように思います。
品質へのこだわり
「木材は生きている」と言います。空気中の水分を吸ったり吐いたりしながら、寸法が微妙に変化するのです。それは工場で加工している最中の木材も同じことです。
工場長が、「この工程は1時間以内でやります」とか「この加工は一気にやってしまいたい」とか話していたのは、まさにそれを意識してのこと。どれだけ正確に加工しても、次の工程まで長い時間放置されていたら、せっかくの精度が台無しになってしまいます。だからこそ、次の工程へ、次の工程へと素早く進むのが理想なのです。
つまり、各工程できちんと精度を出すのは当たり前で、その上で工程全体の精度を上げることを常に考えているようでした。
それはつまり、最終的にお客様にきちんとしたものを届けたい、お客様に喜んでもらいたいという思いに発するもので、私も「こんなに一所懸命作ってくれているんだ」とうれしくなりました。そして、安心してお客様に販売できる、と確信しました。
最後になりましたが、山主の萩原さん、玉川きこり社の繁田さん、矢野さん、榊原さん、どうもありがとうございました!
倒した木をバックにみんなで記念写真。右の方は、玉川きこり社の矢野さん。