絵本作家いせひでこさんと映画「いのちのかたち」のこと
いせひでこさんは、1995年1月に起こった阪神淡路大震災の2ヶ月後に、絵描きとして何かを描いて伝えようとスケッチ帖をもって神戸の青ビニールの風景の上を歩きまわりながら、結局何も描けず無力感を持ったまま帰ります。その3年後、いせさんの所に復興支援のための「1000人のチェロ・コンサート」の呼びかけが届き、チェリストのひとりとして参加、そこから『1000の風、1000のチェロ』の絵本が生まれたということです。
それから10年以上の月日がたち、いせさんは『チェロの木』という絵本を描いていて、もうじき完成という時、東日本大震災がおこり、その結末が描けなくなってしまったそうです。いせさんはこの時もすぐに被災地に通い、そして宮城県亘理吉田浜で一本のクロマツの倒木に出会います。そのクロマツは根の裏をさらしたままじっと横たわっていて、ついこの間まで、防潮林や村がそこにあったことを、沈黙というかたちで伝えようとしているようで、初めて被災地でスケッチ帖を開いたということです。その後、伊勢真一という映画監督との出会いがあり、いせさんとこのクロマツのことがドキュメンタリー映画にもなることに。
最初、何をどう伝えるのか、いせさんも監督も、全く分からないままカメラは廻りはじめたようですが、絵本の制作場面、小さきものたちをスケッチするところ、いせさんのチェロを弾く姿、被災地での植林、庭の植物たちとの対話などを撮っていくうちに、だんだんに、タイトルにもなった「いのちのかたち」という骨格が見えてきたようです。そして、2015年5月、仙台での『復興支援1000人のチェロ・コンサート』―高校生たちの合唱と1000のチェロのコンサートの模様が映画にも登場しますが(この時もいせひでこさんは参加します)、これが映画の山場になっています。
いせひでこさんはこんな風に、絶えず「いのち」と向き合い、画家として絵本作家として自分に何ができるのかを考えて生きている人。わたしたちがいせさんの作品を読むときに感じるある種の“重さ”は、そういうところから来ているのだと納得がいく気がします。そして、伊勢真一監督の映画の手法も、軽薄に感動させたりせず、たんたんとした語り口調の中に、人間の「いのち」の営みをにじみ出させていく感じで、ふたりの相性はバッチシ、よくぞ出会ってくれたと私は嬉しく思っています。
(柿田友広)
先行上映会とトークショー&ミニコンサートやりました
トークショー「作家・いせひでこを見つめて」登壇:伊勢真一(監督)、柿田友広(百町森代表)、藤谷名菜子(ヴィオラ奏者)
いせひでこ絵本朗読 〜オブリガード・ヴィオラ〜朗読:柿田友広、ヴィオラ演奏:藤谷名菜子
ミニヴィオラコンサート ヴィオラ:藤谷名菜子、ピアノ:小林摩湖
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