ドイツの旅99(佐々木)
1999/02/03●ドレスデン観光とニュルンベルクへ(ドレスデン〜ニュルンベルク泊)
今日はニュルンベルクへの移動日だ。昨日と同じように、早めの時間からレストランに行って朝食をとる。なんとなく、部屋の雰囲気が昨日よりも暗く静か。照明のせいだろうか。窓の外はまだ暗い。昨日、ザイフェンで「ドイツ人は寡黙だ」と思い込んでしまったせいか、誰もが黙って食事をしていることが気になる。話している人がいても、ひそひそ声でなんだかとても静か。もしかして、こんな静かな中で昨日の朝は大声でバカ話しをしていたのかと思うと、少し恥ずかしい。回りの人が日本語がわからなかったのが幸いだ。相沢氏は、昨日と今日でビュッフェのものをほとんど食べたと言って満足そう。
8:30にホテルをチェックアウトして、スーツケースを引きずってドレスデン中央駅へ。ニュルンベルクへの電車は15:25発なので、手荷物預かり所に荷物を預けて(4DM)身軽になってからドレスデン観光に繰り出す。最初の夜と同じように、市電に乗って街の中心部へ行くことにする。駅前の市電専門のインフォーメーションが面白そうだったので覗いて、市電の絵葉書やらボールペンを買う。自動販売機でチケットを買って(この機械の使い方がよくわからないのだが、とにかく一番安い切符にする)、11番線の電車に乗り込む。日本のような改札や料金箱はなく、市電の中に置いてある検札機にチケットを差し込むとその時間が印刷される。我々の切符はそれから1時間の間有効で、乗り継ぎ自由である。車掌による検札もないので、無賃乗車も簡単にできるが、たまにある検札でつかまるとかなりの罰になるらしい。
postplatzで降りて、まずはレジデンツ城へ。レジデンツ城ResidenzschloB は現在修復中。101mある時計塔が城の最古の部分で、「この塔より高い建築物をドレスデンに造ってはならぬ」というアゥグスト王のおふれは、300年経った今日でも忠実に守られている。この外壁に、マイセン陶器のタイル25000枚に描かれた、長さ101mのザクセン地方の歴代君主の行列(Der Furstenzug)の壁画があり、戦災から奇跡的に逃れた。これを見ていて、川島さんが「昨日、ヴァルターさんの最後の部屋で見せてもらった行列はこれのことじゃない?」と言い出す。「昨日、奥さんも101mがなんとかって説明してくれたし。」それを聞いて、一同そうかとやっと気付く。昨日の時点では、誰もわかっていなかったのだ(笑)。早速、昨日ヴァルターさんのところで露木さんが気に入った人物を見にいく。確かにそれらしき人物がいる。これを人形にしてしまったヴァルターさんに改めて感服する。壁画の前で、若者が露店を開いてお土産を売っている。この壁画の解説本は長ーく伸ばせて、表には壁画を、裏にはそれぞれの君主の名前と簡単な説明が書いてある。彼は絵描きでもあるらしく、我々が立ち去ってすぐに絵も並べ始めた。もう一度戻って絵を見せてもらい、柿田氏が一枚購入する。
少し歩くと、ホテルヒルトン(Dresden Hilton)があり、マイセンのお店があった。興味があったので入らせてもらう。挙式間近らしき女性がドレスをあわせている。小さなフロアだがこれだけマイセンが並ぶと圧巻。色々なシリーズごとにショーケースに納められているが、私は色物よりも染め付け(藍色)のものが良い。妻が好きなのでお土産にしようと真剣に選び始める。他の皆さんには先にホテルの別の店に行ってもらう。値段が高いので、ブルーオニオンの一番小さな小皿にする。清水の舞台から飛び降りた気持ちで2つお願いしたが、1つしかないとのことで拍子抜け。
ホテルの中のレストランで昼食にする。ご飯を使っている料理(チャーハンのようなもの?)のポスターが展示してあったので、それにしようとメニューを見るがどれがそうなのかわからない。幸い英語も書いてあるので、cucumber cream source(キュウリのクリームソース?) with red riceと書いてあるものが多分それだろうと予想して、男3人はそれを頼む。露木さんはその料理にプラスしてザクセン風ポテトスープのカップを、川島さんはポテトスープのボールのみを頼んだ。最初に露木さんのスープだけが来る(スープの注文は一つしか通っていなかったらしい)。それからしばらくして、めあてのご飯料理ではなく、グリーンのクリームスープに赤米が浮いているもの(チキンスープライス入りのようなものか?)が運ばれてきた。ウエイターが露木さんのところでなく、川島さんのところへ置こうとしたので、「それはこっち」と説明して、露木さんのところに置いてもらう。
「ウエイターはびっくりしてたよね」「そりゃあ、スープを2つ頼む人なんてまずいないもの」「日本で言えば、味噌汁と豚汁を一緒に頼む感じかな。」
その後、甘いごはんのフライのオレンジリキュールソースがけみたいなやつが出てくる。これが、何とも言えない味(おいしくない!)で、みんなびっくり。日本では、写真入りのメニューがあったりして、わかりやすいが、外国で思った通りのものはなかなか出てこないものだ。
ホテルの向かいの教会(フラウエン(聖母)教会Frauenkirche 戦争の悲惨さを伝えるために、廃墟のままの姿をさらしていたが、1994年に再建が始まった。瓦礫の山からひとつひとつのかけらを分類、鑑定したうえで元の場所に戻し、欠けた部分のみ新たな素材で補うという気の遠くなるような作業は、「世界最大のパズル」とも呼ばれている)の改修工事の様子が面白かったので、食事を終えてから、先に店を出て写真をとる。教会の鐘だけは、地上に作られた集成材のアーチの中にみんなが簡単に見ることができるように、つり下げてある。
食事を終えてから、Zwinger宮殿の中の「数学・物理学サロン(Mathematisch Physikalischer Salon)」を見にいく。地球儀・天球儀や測量機械、計測機械、時計などのコレクションだ。これも実に味わい深くて科学の進歩の様子が伺える。そして、測量技術や物理学を大きく発展させたのは、戦争だったことがわかる。
けっこう疲れたので、ちょっと早めだが中央駅に戻り、駅の2階の喫茶店で休む。駅構内の売店でついにUnderberg(ウンダーベルク:43の国のハーブから作った整腸作用のあるお酒)を見つける。相沢氏はこれが好きで、昨日・今日と色々な場所で捜していたのだ。分けてもらって、試しに飲んでみる。飲み込むと胸がカーッと熱くなる。アルコール度数が44%とウォッカ並だから強い。味はうまいとは言えないが、味わい深く滋味深い。相沢氏は、最初の夜に見つけたガロ風のマンガを買うために、本屋へ出かける。私もお供する。みんなはしばらく休んでから、電車の中で食べる夕御飯を買っておいてくれるらしい。本屋には目指すマンガがあった。戻りしな、パン屋で甘系のパンを買って帰る。
荷物を預かり所からもらって、3番線へ。すでに電車はホームに止まっている。ドイツの電車は床が高いので、「よいしょこらしょ」と荷物を持ち上げて列車に積む。予約した席は、まるでタンタンに出てくるような6人掛けの個室で、廊下とは扉で仕切られている。席の上には網棚を頑丈にした荷物置き場があるので、スーツケースを上に置く。なんせ、6時間近くこの電車に乗ることになるので、なるべくつろげる様にしたい。15:25出発するも、スピードはかなりゆっくりで、思わず心配になる。
「6時間もかかるのは、このスピードのせいじゃない?」「もっと飛ばせば早く着くのにね。」「これが旧東ということかも。あせっても仕方がないよ。どうやったって6時間かかるんだから」
相沢氏が買ったマンガを見たり、食事をしたり、バカ話をしたりして過ごすが、いよいよ眠くなってきたので、シートをずらして眠ることにする。シートの座面を前の方にずらすと、向かい合った席どうしがくっついて、寝転がれるようになっているのだ。しかし、向かい合わせの6人掛けということは、3列しかないわけで、そこに大人が5人寝るのはかなり狭い。しかも、足が伸ばせるほどの長さもない。私は、相沢氏と川島さんとの間に挟まれて、膝を立てて眠った。
21:18予定通りニュルンベルクに到着。寝ぼけ眼で荷物を片づけ、スーツケースを棚から降ろして電車を降りる。正面出口に出て、タクシーをつかまえる。さいわい大きなワンボックスタイプがあったのでお願いする。民泊先の住所を教え、ニュルンベルクの地図を見せて「多分この辺だと思う」と指さす。これでもう大丈夫だろう。ニュルンベルクの街は、店のショーウインドーが華やかで、ドレスデンとはずいぶん違う。車はニュルンベルク中央駅から一路南へ向かう。私はついつい手元の地図を見て、自分がどこにいるのかを確かめてしまう。タクシーの兄ちゃんは「地図なんか見なくたって大丈夫」という様なことを言う(柿田氏によれば)。もしかすると、彼を信用していないように思ったのかもしれない。周りのみんなは「ただの地図オタクだから気にしないで」と日本語で(!)言う。20分くらい走ったのかな。目的地のそばに来てから、少し迷うが何とかたどり着く。女性の泊まるVolkertさんの家、我々のWittmannさんの家は、実はものすごく近く、最初は1駅分くらいあるかと思っていたが、歩いても5分とかからないことが判明。一安心する。下調べしたときに、「Im Unteren Grund」と「Unt.Grund」を間違えていたようだ。
女性を送り届けてから、Wittmannさんの家へ。彼は暖かく出迎えてくれた。英語が上手なので助かる。我々が泊まるところは、母屋の裏にある離れで、玄関の左に8畳くらいの居間、右にも同じくらいの寝室とバスルーム、トイレがある横長の造りだ。Wittmannさんは、ベッドから始まって、トイレ・風呂・鍵・照明・インターホン・オイルヒーターの使い方を説明してくれる。玄関のたたきには、ミネラルウォーターとビールが1ケースづつ置いてある。明日の朝、メッセにどうやっていくか相談したところ、会場まで送って下さるとのこと。「我々には2人の女性の友だちがいるのですが」と言うと、「そのことは知ってるよ。もちろん彼女たちの家まで迎えに行くよ」というありがたい返事。なんとまぁ、頼もしい人だ。「それでは、おやすみなさい」と言って彼が立ち去ってから、居間のソファに腰掛けてビールを飲む。年季の入った太い梁と柱、内装や家具にも木材がたくさん使われていて、なんとも心が安らぐ。居間の簡易ベッドに柿田氏、寝室の2つのシングルベッドに相沢氏と私が寝ることにする。