ドイツの旅99(佐々木)
1999/02/05●相沢氏パフォーマンス初日〜ピエール・クラーセン再会、カスパーさん(ニュルンベルク泊)
いよいよ今日は、ネフ社ブースでの相沢氏の積木パフォーマンス初日だ。相沢氏もかなり気合いが入っている。今日の衣装は濃いグレーのズボンとざっくりしたプルオーバーのセーター、その下には黒のとっくりのセーターで、上から下までモノトーンといういでたち(本番では上のプルオーバーを脱いだ)。これは、西川さんからの指示で、多分ネフ社の意向でもあるのだろう。ネフ社のブースは黒を基調としたシックな空間で、社員の服装もみんな黒。それに合わせたに違いない。
朝から雨が降っているが、相沢氏は傘を持ってきていない。相沢氏曰く「私は強烈な晴れ男で、講演やパフォーマンスのある日は、絶対に雨が降らないから、傘を持って出かけないんだ」とのこと。聞くと、伊東市で講演があったときなんかは、乗り換え予定の熱海まで行ったら、その先不通になっていて、伊東へ向かう電車は、さっきまで不通だったのが、相沢氏が着いたとたん動き出したとか。果たしてこのジンクスはドイツでも通用するのだろうか?
今日も昨日と同じ朝食。相変わらずうまい。野菜・果物が出ないのが残念だが、夕べ中央市場の出店で買ったネーブルを食べる。相沢氏は、丸いパンにチーズとハムをはさんで今日のお弁当にする。
出かける頃には雨は上がっていて、相沢氏の晴れ男伝説はドイツでいっそう磨きがかけられたことになる。昨日と同じようにWittmannさんの車で会場まで送ってもらう。6人も乗っているので、会場近くに来て会場整理の警官らしい車に出会うとびびる私たちであったが、Wittmannさんは全然平気であった。
ネフ社のブースに行くと、樋口さんご一行が来る。あちらは、エルフ社長の樋口さん、てとてと工房の高橋さん、木楽やのさいとう氏、北海道で保母をしている森田さん、藤崎さんの5人連れ。夕べはイタリア料理で夕食を食べた後、我々がいた店に捜しに寄ったとのこと。我々はとっくに帰っていた時間だったらしい。さいとう氏は風邪がひどいようだ。最初のパフォーマンスが始まる10時近くになり、相沢氏の指示の下、パフォーマンスに使う積木をブースの中から選んで、パフォーマンス用の台の下に置く。ネフスピール、ダイヤモンド白木、アングーラ、セラ、キュービクス、ヴィボ、アレーナ、キーナーモザイク、ヴィアなど。パフォーマンス用の台は表面が柔らかく、細かい積み作業が難しいので、ブース内のコマ置き場兼コマ回しスペースになっている黒い木の板を借りることにする。
10:00樋口さんご一行と我々百町森関係者の見守る中、最初のパフォーマンスが始まる。相沢氏はかなり緊張している。私を含め、関係者は写真を撮りまくる。途中で、黒い木の板を持って行かれるというハプニングもあったが、予定通り約30分後、無事にパフォーンマンスを終える。見ている私もぐったり。
今日は3号館を中心に見る。途中、4号館(鉄道模型のブース)の入り口にDBショップ(鉄道関係のグッズを売っている)があり、川島さんと柿田氏は、携帯できる小さな目覚まし時計を買う。私もと思ったが、混んでいたのと、実物を触ってみたいので、次の機会に譲る。KATA KISSOCZYさんのつくるモザイク状のパズルは、全て手作りの一点ものでおもちゃと言うよりは芸術品に近い。プリミティブでもありポップでもあり、非常にぐっと来るものがある。露木さんの、「女の醜い部分が出ているね」とのコメントに私は何も答えられないのであった(笑)。
会場のメイン入場口のところに「木のおもちゃ ドイツデザイン賞(Deutscher Designpeis Holzspielzeug)」のノミネート作品と、受賞作が展示してあった。1位はアドラー社の「卓上ミニゴルフゲーム(Tischminigolf)」、と書くといかにも安っぽいおもちゃに思えるが、染めた木材の色具合がなかなか落ち着いた雰囲気を醸し出している。個人的には我々がブースで熱狂したサッカーゲームの方が面白かった。2位はネフ社の「トルシィゴマ(TORSI)」で、デザインは日本人の石川ひでかさん。百町森でも売っているが、特に大・中・小の3個セットは仕上も美しい。3位は、Helga Kreft社の「帆掛け舟(Segelschiff)」。12のノミネート作品の中には、ネフ社の新作「カラピラミッド(KARA)」や、Erzi社、アーレンス社などなじみの深い会社のものがあった。ただ中には「これの、どこがデザインが優れているのだろう?」と首をかしげるようなものもあった。
お昼は会場内の出店のような所で待ち合わせた筈だが、柿田氏も樋口さんたちも現れないので、先にニュルンベルガーサンド(ドイツパンにニュルンベルガーをはさんだもの)を買う(おいしかった!)。雪も降り始め、外はかなり寒いので、2号館の入口の所で食べる。遅れて柿田氏とさいとう氏登場。まだ、お腹が空いていたので、ハンバーガーも買う(これもおいしかった!)。そうこうしているうちに、すぐに午後のパフォーマンスの時間の14:00になる。西川さんやネフさんの見守る中、1回目よりも順調にパフォーマンスを終える。終了後、ネフのフランスの輸入元であるBass&Bassの方が話しかけてくださる。相沢氏のパフォーマンスがかなり面白かった模様。百町森の写真や、森田さんの保育園での積木の写真を見せると大変喜んで、パフォーマンスの写真を送る約束をする。「パリに来たらぜひ立ち寄って欲しい」と言って下さる。
パフォーマンス後、しばらく各社のブースを見て回る。ミッキィ(MICKI)社のブースには期待していたのだが、思ったよりも展示内容はあっさりしていて、レールセットもパッケージが並んでいるだけという状態。新しいもの・面白いものには出会えなかった。
一方、ブリオ(BRIO)社のブースは非常に大きく、テーブルと椅子をたくさん並べた商談スペースにはスーツを着たビジネスマン風の人々がたくさんいて、さすが世界有数のおもちゃメーカーだけのことはあると納得。しかし内容は、展示スペースの半分がプラスチック製のダンプカーやカナルシステムと呼ばれるアクアプレイ社のカナルロックの類似商品で占められている。レールセットは幅1m長さ5mくらいのジオラマが作られているが、残念ながらインパクトは弱い。しかも、列車の一部がプラスチックに切り替わっていてがっかり。何でも木が良くてプラスチックは良くないなんて言うつもりはないし、プラスチックの持つ工業生産性の高さや耐久性などを生かしたおもちゃもたくさんあると思う。しかしながら、木製レールセットで売ってきたBRIOの列車が、木からプラスチックに替わってしまうことは、コストダウンの効果はあるだろうが、それと引き換えに大切なものを失ってしまう気がしてならない。また、ブリオメックの後釜であるビルダーシステムの展示もあったが、やはり面白くない(なんだか苦言ばかりになってきたなー)。メックの持っていた想像力次第でいかようにも遊べる自由な雰囲気が、このシリーズではなくなってしまい、箱に印刷されている乗り物を作るためのセットという感じでプラモデル化している気がする。色使いやプラスチックパーツはレゴテクニークを意識しているのか、見た目は派手でかっこいいのだけど。
15:30クレヨンハウスの方と会うために再びネフ社ブースへ。するとそこにはピエール・クラーセン氏(Peer Clahsen:キュービクス、セラ、ダイヤモンド、アングーラなどのデザイナー)がいた!ちょうど西川さんと話をしているところで、相沢氏はうれしさに「チャクラが開いてしまった」。クラーセン氏は、メッセのような人混みの多い場所は好まないので、めったに来ないらしいのだが、この日はたまたま訪れたらしい。その場に居合わせた幸運に柿田氏始め私たちも大喜びで、一緒に写真を撮らせてもらう。このあたりのミーハー乗りは我ながらすごいと思う。
この時点で、私はメッセの通しチケットをなくしていることに気がついた。14:00のパフォーマンスの時にはあったので、そのあとの1時間くらいの間に落としたらしい。クレヨンハウスの方とお茶を飲みに行くついでに、中央サービスセンターのインフォーメーションに、届けものがないか聞きにいく。そこは、会場外にあったので、「Permission」と書かれた札をもらって外に出る。これがないと、たとえチケットを胸に付けていても再入場できないのだ。インフォーメーションで、「メッセの通しチケットを会場内でなくしたのだけれども、届けられていないか」と慣れない英語で尋ねるが、「それは、まず出てこないだろう。申し訳ないがもう一度チケットを買ってくれ」とつれない返事。「再発行できないのか?」との問いにも、「それはできない。もう一度チケットを買ってくれ」とにべもない。
「それでは、もう一度中に戻って、自分で落ちていそうなところを捜す」「それはできない」「このPermissionがあるのだから、あなたから事情を説明してくれれば、係員は入れてくれるはずだ」「Permissonがあっても、チケットがない以上、それは規則でできない」
私も好き好んで会場外に出たわけではない。落とし物がないか聞きに来ただけだ。届けられていないなら、会場に戻って自分で捜すしかない。もし見つからなければ、あきらめてチケットを買おう。でも、それは明日の話だ。今日の朝、私はチケットを見せて入場しており、外に出るときにはPermissionをもらっている。そもそもなぜこのカウンターが会場外にあるんだ?!と私もだんだん興奮気味になってくる。しかし、私のつたない英会話力では、そこまで表現できない。しかし、このままではチケットを再度買う羽目になる。あ〜、困った、どうしよう。再入場できない以上、誰にも助けを求められない。そして私は逆上気味に大声で、「No!No!それはおかしい!だめだ!私は納得できない!」と日本語で叫んだ。相手が何を言っても、「No!それはおかしい!」と大声で言い続けた。ようやく「私の権限を超えているので、2階へ行って話をしてみてくれ」と相手が折れた。そこから先は話は早く、事情を一通り説明して、自分の名前をノートに書くと代わりのチケットをもらうことができた。今日の分だけで良かったのだが、通しチケットだった。あ〜、助かった。これで一安心。
再入場して、みんながお茶を飲んでいる場所に戻り、今の話を少し興奮しながら話す。川島さんがDBショップで買った携帯目覚まし時計を見せてもらう。お茶の後、DBショップでおみやげを買うために、みんなと別れ一人で4号館へ。ここは、館全体が鉄道模型のブースで、あちらこちらに精巧なジオラマがあり、煙を上げながら汽車や電車の模型が走っている。いやぁ、鉄道模型マニアの層の厚さというか底の深さをかいま見た気がする。感心しながら、電車・汽車好きの息子のためにFREISCHMANN社やTRIX社のカタログをもらう。DBショップでは、携帯型の目覚まし時計とICEのネクタイピンを買う。しかし、このネクタイピンは付ける機会があるのだろうか?(その頃、柿田氏ご一行は万華鏡のブースなどを見ていたらしい)
17:30ネフ社ブースに戻り(まるでホームグランドのようだが、まさにメッセ期間中私たちは色々な人との待ち合わせや、集合場所としてここを利用させていただいた)、樋口さんご一行と合流する。チューリッヒでAHAという名前のおもちゃ屋をやっているカスパー(Casper Schwabe)さんが声をかけてくれる。奥さんが日本人とのことで日本語が上手。「頭が薄いのでカッパと呼んで下さい」とおっしゃるひょうきんな人である。相沢氏は、以前そのチューリッヒの店をたまたま訪れたことがあり、そこにはその頃発売されたばかりの「アイソモ」がディスプレイされていたらしい。「これは私のデザインだ」と話したことを彼も覚えていた。奇遇と言うかなんというか。彼も友だちと一緒にブースを出しているとのこと。見に行くのは、明日の楽しみに取っておいて、時間も遅くなってきたので夕食を食べに出かける。もう、終了時間が近いので、Uバーンの駅もものすごい人。ホームに降りると、西川さんやネフさんたちもいて、このすごい顔合わせが一緒に満員電車に乗るなんて、もう2度とないぞ、どんな会話になるんだろうと野次馬的に喜んでいたのだが、電車が満員になってしまったので、同乗する事ができなかったのが残念。
Lorentzkirche駅で降りて、待っていてくれたみんなと合流して、レストランへ向かう。途中のスーパーマーケットで、Underberg24本入りを買い、みんなで分ける。私は6本ほど確保する。樋口さんは、イースターエッグをもじったチョコレートを買う。夕食はカイザーブルクに近い○○で。こじんまりとした静かなお店で、酢豚や焼き肉(こう書くと日本の食事みたいだけど、ちゃんとドイツの料理)、鱒などを食べる。さいとう氏は風邪がひどく辛そう。樋口さんはしょうゆを持参していて、分けてもらう。食後、夜のニュルンベルクの街をぶらぶらと歩きながらUバーンの駅へと向かう。駅で、樋口さんの買ったチョコ卵を食べてみると、黄身の代わりにプラスチックのカプセルが入っていて、それを開けると中からおまけが出てきた。みんな喜んで「また、今度買おう」と話す。今夜もUバーンで終点Rothenbachまで行く。今日はバスに乗って、民泊先から5分もかからないバス停ReichelsdorfSudで降りて家に帰る。柿田氏と相沢氏は、明日のパフォーマンスの衣装の打ち合わせ。どうも、お風呂をくむお湯の温度が低く、ぬるいお湯しか出ないのが残念。トイレの水の出も今一つで、なぜかトイレットペーパーが流れないのである。