トイメーカーを訪ねる旅2004 その8
キーナー社
今回の旅の最後の訪問先、ロッサウにあるキーナー社も、緑豊かな素晴らしい環境の中にありました。正しくはキーナー社本社は、チューリヒにあります。ここは、キーナーさんが木工の仕事を依頼している「das www 仕事と住むための家」という施設です。
緑に囲まれた環境。農場もある。
(キーナーメモリーなどの美しいオフセット印刷はチューリヒ市内の印刷工場で印刷されここに運ばれます)
チューリヒの印刷工場:聖誕の木の絵本
チューリヒの印刷工場:青色のみ印刷されたネームカード
チューリヒの印刷工場:印刷されたネームカード
ここは、飲酒あるいは麻薬によって社会生活もしくは精神に支障がある人々に、保護された職場と世話の行き届いた住居を提供しています。住人はそれぞれ、ガーデンや農場での労働、家事労働、そして工房での玩具、家具の製作と自分のペースで働くことができるようです。ダマスクローズのよい香りこぼれる素敵なガーデンの前で、迎えてくださったのはキーナー社の創設者、陽気で明るい、カテリーナ・キーナーさん、施設長の、ハンスルーディー・ゾンマーさん、他スタッフの皆さんです。
自然な雰囲気を残した素敵なお庭
まずは、食堂で本場のチーズフォンデュをご馳走になりました。「ワインで溶かしたチーズにシェリー酒を浸したパンをつけながら食べるように。また冷たい飲み物を飲むと、胃の中でチーズが固まってしまうので、飲み物はワインか温かいお茶を。」とキーナーさんの説明を受けながらおいしく頂きました。そして、リラックスした雰囲気も手伝ってすっかり酔っ払ってしまったのでした。
チーズフォンデュを食べる明るくて大らかなキーナーさん
しばらくして酔いも醒めた頃、いよいよツィンマーマンさんの案内で工房の中を見学させていただきました。キーナーといえば美しい絵と色でお馴染み。「キーナーメモリー」「キーナー手回しオルゴール」「ナイトランプ」「誕生ブック」「愛の絵本」などなど・・・それが目の前でカットされ、箱詰めされていきます。すべて手作業です。椅子を組み立てている男性は、ドライバーで一つ一つネジを締めています。「電気ドリル使わないのかしら?」と素朴な疑問が湧いてきました。するとニキティキの西川さんから「ここの人たちは、急ぐ必要がないのよ」という明快なお言葉。「なーるほど」と深く深く感じ入る私でした。
印刷されたキーナー動物ドミノをカットする
工房で生産されるものは、キーナー社以外の物もありますが、30年来の依頼主のキーナー社の商品が中心のようです。需要と供給の関係がお互いの信頼の元に成り立っている安定感。仕事の原点を見る思いでした。
もう一つ感心したのは、リサイクル・リユースの精神、廃材やおが屑は集められ、熱となって室内の暖房としておくられています。
廃材をボイラーで燃やして熱源として利用
印刷の失敗したキーナーメモリーなどは裏を利用して赤いハートが作られていました。
商品を入れるコンテナの代わりに、野菜や果物の空きダンボール箱を使っていたり、廃材を利用した火種(これは製品として売られています。)も素敵でした。さらに外には40頭の牛、800羽の鶏、90頭の豚、その他馬も飼われていました。農場で収穫された野菜や果物、瓶詰めされたジャムや蜂蜜も売店で売られていました。自給自足の理想的な暮らしを垣間見た気がしました。
商品コンテナは、野菜や果物の空き段ボールを再利用
さて、帰国してから工房で頂いてきたニュースレター<2004・9月発行>を読んでみると(ドイツ語ですから読んでもらったのですが…)、この施設は、10年前の1994年9月23日にそれまでの「チューリヒ市立青年の家」から今の「das www仕事と住むための家」に名前を変更したようです。名前を変更した大きな理由は女性の受け入れのためです。男女混合の運営体として馴染むまでに時間を要しましたが、今日では男女が共に生活しています。今年は、その記念すべき十周年という訳です。
das WWWのニュースレター"Brief von der Weid"
このレター記事には、10月8日に日本から私たちが訪問することも書かれておりました。さらに30年近くにわたりキーナーさんから玩具や装飾品の製作を依頼されている事、日本へもたくさん出荷している事、またキーナーコレクションは日本で大変人気がある事、輸入代理店の西川さんは東京の店舗で一部を販売しその他に日本中のお店に卸している。なーんてことも書かれています。ドイツ語ができればリアルタイムで読めたでしょうに・・・。10月8日に訪れたアルビスブラン社、ゲッツヒホフ、そしてこのdas WWWは、すべて福祉施設に併設された工房でした。おもちゃの勉強だけでなく多くのことを考えさせてくれました。
(山崎)
訪問日/2004年10月8日