トーベ・ヤンソンとムーミン
ムーミンってあなどれない
絵本や童話は、しばしば軽く見られがち。でも、読んでみたら、意外と奥が深くて驚いたという大人が多い。そして、この「ムーミン」もそんな童話のひとつ。
哲学者の冨原眞弓さんも、最初はムーミンについて偏見を持っていた(やさしく、わかりやすく、時としてくどいほど説明的だろう)。ところが、読み進むにつれて
(前略)これは明るく楽しいだけの冒険物語ではない。架空のキャラクターにことよせて、実は現実世界に生きる等身大の人々の悩みや憧れについて語られているのではないか。(後略)
[ ムーミン谷へようこそ ] より
とわかったという。
(コプタ通信2006年10月号より 柿田友広)
我が家では2年近くかけて、全巻を読み聞かせました。正直なかなか大変でした(特に最後の2冊)。「ムーミンパパ海へいく」はあまりにも閉塞感が強くて、私自身が読み続ける勇気をなくしそうになったのですが、次男の「お父さん、ムーミン読んで」の声に励まされて、なんとか読み終えた次第です。改めてシリーズ全体を見直してみると、全てがお薦めというわけでもないんですね。「では、何を読んだらいいんでしょうか?」というご質問に独断でお答えします。
- 1冊だけ読むなら
- 楽しいムーミン一家
- もう少し読むとしたら
- ムーミン谷の夏まつり
- ムーミン谷の彗星
- はまってしまったら
- ムーミンパパの思い出
- ムーミン谷の冬
- 小さなトロールと大きな洪水
- ヤングアダルトの読み物として
- ムーミン谷の仲間たち
- ムーミンパパ海へいく
- ムーミン谷の十一月
あらすじや登場人物などの詳細は、下にある表にまとめましたので、そちらをご覧下さい。
(2008年8月8日 佐々木)
ムーミン早見表
巻 | 題名 | 前半/後半 | 発行年 | あらすじ | 主な登場人物 | 佐々木のひとこと |
---|---|---|---|---|---|---|
0 | 小さなトロールと大きな洪水 | 前半=夏のシリーズ | 1945 | パパはいないけどもう待っていられない。冬が来る前に家を建てなければ。ムーミントロールとママは、おそろしい森や沼を抜け、荒れ狂う海を渡って、お日さまの光あふれる温かい場所をめざします。 | ムーミントロール、ママ、スニフ、ニョロニョロ | もともとは、これがムーミントロールの原点。ただし、絵や設定は、後のものとやや異なるので、別物と考えてよい。でも、ここから読みはじめるのもありだと思う。短かめの話で、絵も多いので、気軽に楽しめます。 |
1 | ムーミン谷の彗星 | 1946(最終版:1968) | 長い尾を光らせた彗星が、地球にやってくるというので、ムーミン谷は大さわぎ。ムーミントロールは、彗星を調べるため、スナフキン、スニフと一緒におさびし山の天文台へ出発します。 | ムーミントロール、ムーミンママ、ムーミンパパ、スナフキン、スニフ、スノークのおじょうさん、ヘムル、じゃこうねずみ | まん丸いムーミンの体にはなっていないが、ほぼ完成に近いので違和感はない。スニフとスナフキンが旅の仲間として活躍する。特にスニフがいい味を出してる。 | |
2 | 楽しいムーミン一家 | 1948 | 長い冬眠からさめたムーミン谷の愛すべき仲間たちが、海べりの山の頂上で、黒い帽子を見つける。だが、それは魔物の帽子だったために、次々におかしな事件が… | ムーミントロール、ムーミンママ、ムーミンパパ、スナフキン、スニフ、スノークのおじょうさん、ヘムレンさん、スノーク、ニョロニョロ、トフスランとビフスラン、じゃこうねずみ、モラン、飛行おに | アニメでムーミンを知った私のイメージに一番近いお話。主な登場人物も勢ぞろいして、それぞれの個性をにぎやかに発揮します。盛りだくさんのエピソード、心温まる結末もあって、最初のムーミンとしてもお薦めの一冊。 | |
3 | ムーミンパパの思い出 | 1950(改訂版:1968) | ムーミンパパが「思い出の記」を書きました。捨て子だった子ども時代のこと、冒険にあこがれてホームを抜け出したおそろしい夜のこと。発明家フレドリクソンとの出会い、スナフキンの父ヨクサルや、スニフの父ロッドユールの若い日の思い出。そして、可愛いむすめだったムーミンママとの劇的な出会い…。 | ムーミンパパ、フレドリクソン、ヨクサル、ロッドユール、ヘムレンおばさん、ニブリング、ミムラ夫人、ミムラのむすめ、ちびのミイ、ムーミントロール、スニフ、スナフキン、ムーミンママ | 若きムーミンパパの冒険談。ムーミントロールやスニフ、スナフキンに語る今と、昔話が交互に入り交じる構成や、ムーミンパパの思い入れたっぷりな語り口がまだるっこしく感じることもあるが、読み進むにつれ全体が大きなうねりとなって結末に進んでいく。 | |
4 | ムーミン谷の夏まつり | 1954 | 平和な6月のムーミン谷に大洪水がおしよせる。ムーミン一家は、大水をのがれて、流れてくる一軒の家(実は劇場)に乗り移る。しかし、ムーミントロールとスノークのおじょうさんは、はぐれてしまう。そこで、2人を探すために評判になるような劇をすることを思いついて…。 | ムーミントロール、ムーミンママ、ムーミンパパ、スナフキン、ミムラねえさん、ちびのミイ、ホムサとミーサ、フィリフヨンカ | 楽しい「ムーミン一家」と同様、ムーミンのイメージに近い楽しい話。ただし、おなじみのムーミン谷の風景やムーミン家はほとんど登場せず(なにせ漂流中なので)。劇場に暮らすムーミン一家、はぐれてしまったムーミントロールとスノークのおじょうさん、別行動するスナフキンとちびのミイたちのエピソードが盛りだくさんに描かれる。 | |
5 | ムーミン谷の冬 | 後半=冬のシリーズ | 1957 | お日さまがいなくなってしまった冬、雪に埋もれたムーミン谷の仲間たちは冬眠中。でも、いるんです。冬には冬の生きものが。青い月の光にてらされて目をさましたムーミントロールは、いままで誰も知らなかった冬の生きものの世界へ… | ムーミントロール、ちびのミイ、おしゃまさん、めそめそくん、ヘムレンさん、ムーミンママ | シリーズの真ん中にあたるこのお話は、シリーズ前半の明るさ/楽しさに、後半の内面的な葛藤などの雰囲気が少し入り込んでいる。登場人物も多彩で個性的。特にちびのミイは、このお話で性格付けがはっきりして、生き生きと動き回ります。 |
6 | ムーミン谷の仲間たち | 1962 | スナフキン、ホムサ、フィリフヨンカ、ムーミントロール、ヘムレンさん、ニンニ、ニョロニョロ、スニフ、はい虫を紹介する9つの短編集。 | スナフキン、ホムサ、フィリフヨンカ、ムーミントロール、ヘムレンさん、ニョロニョロ、スニフ、ちびのミイ、おでぶさん、ムーミンパパ、ムーミンママ | 原作シリーズで唯一の短編集。しかもクリスマスのお話も入っている。あっさりしているが、内省的で深い味わいがあって、大人が読んでも楽しめる。また、ラフスケッチ風の絵も雰囲気があるが、「ムーミン的」な可愛らしさとは趣が異なる。 | |
7 | ムーミンパパ海へいく | 1965 | かわいいムーミントロールとやさしいママ、おしゃまなミイにすてきな仲間たち。平和な毎日が物足りなくなったムーミンパパは、ある日一家を連れて海を渡り、小島の灯台守になります。 | ムーミントロール、ムーミンママ、ムーミンパパ、ちびのミイ、モラン | 最も読むのがしんどかった一冊。閉ざされた世界(島)で、自尊心を傷つけられたパパは海の研究に逃げ込み、ムーミントロールは親離れを始め、孤独なママは自分だけの世界に閉じこもる。家族の閉塞感がやけにリアル。中学生以上だと思う。 | |
8 | ムーミン谷の十一月 | 1970 | 今は11月。もう少ししたら、ムーミン谷は、真っ白な雪にとざされます。人恋しくてムーミン家に集まってきたフィリフヨンカ、ホムサ、ヘムレン、スナフキン、ミムラたち。ところが、心をなごませてくれるはずのムーミン一家は旅に出ていて…。 | スナフキン、ホムサ、フィリフヨンカ、ヘムレン、ミムラ、スクルッタ | 前作同様、大人っぽいお話。しかし、こちらの方がまだ読みやすいのは、描かれる人物が多いので、リズムのようなものがあるからか。それとも家族でなく、島でないから閉塞感が弱められているのか。いずれにせよ、楽しさとは無縁の内面的な物語。 |
原作 ムーミン童話全集 ハードカバー
ムーミンの原作です。挿し絵もトーベ・ヤンソンによるもの。表紙カバーの絵は、原著もしくは他国版の表紙を使っています。ムーミン全集[新版]
青い鳥文庫版
ムーミンの原作です。挿し絵もトーベ・ヤンソンによるもの。新書に近い大き目サイズ。字も大きめなので読みやすい文庫版です。ムーミン絵本
トーベ・ヤンソン自身が描いた絵本。画家としてのヤンソンの絵も堪能できます。ヤンソン姉弟によるムーミン・コミックス
トーベ・ヤンソンと弟ラルス・ヤンソンによるムーミン・コミックスが、ロンドンの「イブニング・ニュース」に登場したのは、1954年のことです。ちょっとまぬけで心やさしいムーミンたちは、たちまちロンドンっ子たちの人気者となり、20以上の言語に翻訳され、世界中の新聞に転載されました。また、1960年以降は、ラルス・ヤンソンがひとりでさらに15年にわたって連載を続けました。(後略)
[ ムーミン・コミックスのカバー解説文 ] より
新聞連載の4コマ漫画なので、毎回読み切りなのですが、つなげると長いお話になっています。メルヘンとかファンタジーといった味わいはなく、むしろ現実の世界を色濃く反映しています。味付けは、皮肉やパロディ、そして(くすっと笑える)ユーモアなどなど。大人向きですが、スヌーピーやタンタンが好きな子なら楽しめると思います。
トーベによるものが14話、ラルスとの共著が7話、ラルスによるものが46話発表されたそうです。収録話の*はトーベのサインが、**はラルスのサインが、***はヤンソン名のサイン(おそらく共著)が入っています。また無印はサインなしなので、共著と思われます。(2006年9月 佐々木)