1950年12月創刊時の4冊をみる
岩波少年文庫の装丁の歴史2(創刊時の4冊を観る)
2010年8月、岩波少年文庫の創刊60周年を機に「岩波少年文庫の装丁の歴史」というマニアックな記事を書きました。動機は、60年生き残ってきた理由のひとつに、時代に合わせて装幀を変えてきたこともあるんじゃないかと思ったからです。
便宜上、装丁の歴史を6つの時代に分けて、各時代の本を集めました。柿田夫妻の蔵書にはずいぶん助けられ、かなりの部分を押さえることができました。足りない部分は、静岡市や静岡大学の図書館で補いました。
しかし、一番最初に出版された第1期の本だけは見つかりませんでした。見れないとなると、余計に見たくなるもので、「第1期の本を見てみたい、できることなら、一番最初に出版された5冊を。いざとなったら、東京まで出かけて、岩波書店さんに見せてもらおうか、でもこんな個人的趣味に近いことでお願いすることなんてできないし…」などと悶々としていました。
その後しばらくして、私の記事をご覧になったお客さまから、「私の祖父が父(3兄弟)のために買いそろえた少年文庫があります」といううれしいお電話があり、ありがたいことに最初の5冊のうちの4冊を貸して頂けることになったのです!貴重な4冊の画像をここでご紹介します。
第1期の装丁について
ソフトカバーに赤もしくは青で、刺し子模様が前面に敷かれています。3種類のうち2種類が確認できました(何か文様の呼び名があるのかもしれません)。赤と青で同じ模様のものもありました。
カラー口絵は、1冊目にあたる「宝島」で採用されています。おそらくですが、あの時代に子ども向けの読み物にカラー口絵を用意するというのは、並々ならぬ熱意だったのではないでしょうか。
扉中央には、鳥と花を図案化したマークがあしらわれています。一冊一冊かすれ具合が違うので、最初見たときは「えっ?!ハンコ押してるの?」と思いましたが、よく見たら印刷でした。ハンコで押したものを原稿にするというひと手間をかけたおかげで、手仕事の雰囲気が出て温かみを感じます。
最終頁には、「岩波少年文庫発刊に際して」が掲げられています。
4冊の基本仕様
番号 | タイトル | 作 | 訳 | さし絵 | 価格 | 印刷・製本 | 装丁 | 頁数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 寶島(宝島) | スティーヴンスン | 佐々木直次郎 | 表記なし | 120円 | 大日本法令 | 青・菱格子 | 370 | カラー口絵、最初に訳者による「はしがき」、巻末に8ページの註(注)あり |
3 | クリスマス・キャロル | ディケンズ | 村山英太郎 | 佐藤敬 | 90円 | 大日本法令 | 青・菱十字 | 209 | 巻末に註(注)6ページ、訳者による「あとがき」あり |
4 | 小さい牛追い | M.ハムズン | 石井桃子 | 表記なし | 100円 | 株)大化堂 | 赤・菱十字 | 259 | 巻末に訳者による「あとがき」あり |
5 | ふたりのロッテ | ケストナー | 高橋健二 | ワルター・トリヤー | 100円 | 三陽社印刷・永井製本 | 赤・菱十字 | 214 | 巻末に訳者による「あとがき」あり |
4冊共通の仕様
- 印刷:昭和25年12月20日
- 発行:昭和25年12月25日
- 字体:旧仮名遣い
- カバー:ソフトカバー
- 寸法:176×114mm
謝辞
最後になりましたが、貴重な蔵書をお貸し下さったH様、ありがとうございました。