小黒三郎さんと遊プラン

小黒三郎 (おぐろ さぶろう)プロフィール

  • 1936年 東京に生まれる。
  • 1960年 多摩美術大学絵画(油絵)科卒業。
  • 1969年 神奈川県の盲学校、養護学校に勤め、教具づくりを始める。
  • 1979年 松屋銀座遊びのギャラリーにて「小黒三郎・組み木遊具展」
  • 1980年 「ジャパンスタイル展」(ロンドン)に出品。スイスのネフ社とデザイン契約。
  • 1981年 教職をじしてから、デザインフォーラム展、日本クラフト展などに出展の他、各地で個展を開く。
  • 1983年 木のおもちゃメーカー「遊プラン」設立。
  • 1995年 熊本県阿蘇郡小国町に、小黒三郎組み木館「ZOOTOPIA」オープン。
  • 全国各地で個展活動、ワークショップ活動を行う。

絵を描くことが好きだった少年時代

幼い頃から絵が好きだった小黒さんは、大学で油絵を学びますが、デザインを専攻しなかったのは、「デザインの仕事が必然的に持っている、さまざまな制約が嫌いだった」1)からだそうです。

障害児学校でおもちゃ作り・組み木作り

卒業後、9年間中学校の美術教師として勤めたのち、自ら障害児学校への転任を希望し、盲学校に移りました。「全く未知の世界へ自分を追い込んで試してみたいという、自分自身への挑戦だった」2)そうです。そこで、全盲の子どもにとって、目は手なんだと気付かされ、技術工作室で「触察」教具を作り始めます。初めての教具は、正方形を2つに分割した「いわば二片からなる組み木パズルの始まりでした。空き時間や放課後に作っては子どもたちに与え、遊ぶのを見ては触察しやすい、遊びやすいおもちゃの作り方を工夫」2)して、組み木作りが展開していったそうです。

「その頃、日本に展覧会等で紹介され始めたオランダの版画家、M・C・エッシャーの不思議な平面分割に、私は大きな刺激を受け、同時にイタリアのエンゾ・マリの動物デザインの仕事にも心惹かれた。動物の組み合わせによる図地反転の面白さに目を開かせてくれたのは、この画家とデザイナーの夜と昼のように対照的な作品世界であった。」3)

触察教具を作るかたわら、弱視児に動物組み木の試作を与え、「パズル先生」のあだ名をもらったそうです。「子どもたちがどんなふうに反応するかを確かめながら、子どもから教えられ触発されて、私は次第に教具づくりや組み木の世界に入り込んでいった」3)10年間の盲学校時代から2年間の養護学校時代へと移る節目の1978年の3月に初めての個展を開き、これが作家としてのスタートになりました。

作家への道

1979年春には銀座松屋で初の東京での個展を開きます。1980年の春から夏にかけてロンドンで開かれた「ジャパンスタイル展」では、「マグリットの帽子の男」「五匹の仔ブタ」「16の動物」を出品。「五匹の仔ブタ」は、小黒さんのご友人を介して「クルト・ネフ氏の手にわたり、ネフ社とのデザイン契約のきっかけをつくった」3)作品でもあります。秋には初の作品集「組み木の世界」(現在絶版)を出版。この1979,80年は小黒さんが作家として独立するための助走期間だったのかもしれません。

遊プラン設立

1980年「おもちゃの好きな若い二人と京都で出合い、意気投合」2)したことから、自身の組み木のデザインを一手に引き受けて製品化し、販売することを中心業務とする、木のおもちゃメーカー遊プランを1983年1月に設立しました。若い二人とは、グリコのおまけのデザイナーとして有名な故加藤裕三さんと、遊プランの社長である今井聡さん。最初は、芦屋にある加藤さんの居宅の一部を間借りする形でスタート。「和室の畳を上げて電動糸鋸を置き、茶室を事務所にして、自分たちで作り、セールスにも出かけ」2)たそうです。これで、海外でのネフ社に続いて、国内での生産・販売体制が整いました。

遊プランのものづくり

現在は西宮にショールーム付きの本社を構え、糸鋸での製作スタッフは全国4ヶ所(姫路、大阪、岐阜、北海道)にいて、「家内工業的な作り方をし、それぞれの工房で作られた組み木が、西宮に集められ、着色やパッケージングされ、製品として各地へ発送されています」4)。また、最初の頃から製作してもらっている大阪の長谷川木工さんをはじめ、同じ工場で長く作り続けているのも、高い品質を支えています。「円びな五段飾り」などの円形容器は富山で、曲げわっぱ容器は秋田で、特製垂幕は和歌山の堀内あきさん、普通垂幕は滋賀の北川陽子さん、と全てを国内の顔の見える関係で作っているのも、遊プランの特長です。「わが遊プランは小さなメーカーで、多量の注文にはすぐに応じきれないのです。ならばスタッフを増やせばよいと思いますが、それはしませんでした。製品の質を保ち続けていくメーカーとしての適切な規模というものがあります。」2)という小黒さんの言葉どおり、ドイツやスイス、北欧の木のおもちゃを扱う私たちから見ても、遊プランの製品の品質はトップクラスで、しかもそれが安定しているのです。「良いデザインのもとに優秀な職人が集まって、製品をていねいに作り続けた」(今井社長)2)結果だと思います。

(スタッフささき、2012年2月)

引用文献

  • 1)小黒三郎の組み木、1985、小黒三郎、大月書店
  • 2)小黒三郎 組み木の世界、2006、小黒三郎、創和出版
  • 3)子どもの祭りと動物たち、1987、小黒三郎、創和出版
  • 4)組み木のおもちゃ作り、2010、小黒三郎、遊プラン
小黒三郎さんと遊プラン:小黒さん 小黒三郎さんと遊プラン:昔のネフのカタログには小黒さんの作品が。 小黒三郎さんと遊プラン:ワークショップの様子 小黒三郎さんと遊プラン:遊プランのロゴ 小黒三郎さんと遊プラン:糸鋸での加工 小黒三郎さんと遊プラン:糸鋸での加工 小黒三郎さんと遊プラン:彩色

この記事を書いた人

ささき佐々木隆行

2000年に百町森にジョインしたw古株。2人の息子の子育て中に、テーブルゲームにずいぶんと助けられる。 『絵本の読み聞かせ』のように、『家族でゲーム』を文化として根付かせたいという思いで、毎月1回「家族でゲームの日」を開催。ホームページ、ライブ配信、オンラインイベント、動画編集、ネット・IT関連担当。似顔絵イラストはコイズミチアキ(@koizumichiaki2)さん(スタッフ紹介ページへ

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